またその間、精神面での修行も怠ることは無かった。 強さとは何か? 椛は滝に打たれながら一人、自問自答する。 椛「(心頭滅却すれば火もまた涼し…つ、冷たくなんか無いぞ!)」 明鏡止水の境地はまだ遠い… ?「椛よ!そろそろ上がってきなさい!」 椛「は、はい!」 ?「風邪を引かないようちゃんと体を拭いてくるのですよ!」 椛「コーチ!次は何の特訓ですか?」 ?「椛や、私とトレーニングを始めてどれぐらい経ちましたかね…?」 椛「ええっと…ひぃ、ふう、みぃ…指が足りないや…」 ?「大体で結構です」 椛「そうですねえ、そろそろ一年になりますでしょうか」 コーチ「そうか…もうそんなに経つか…」 椛「あの…それがどうかしましたか?」 コーチ「うむ。そろそろいいかな、と思ってな…」 椛「と、仰いますと…もしや!」 コーチ「そのもしやだ!今日はお前に超必殺技を教える!」 椛「は、はいっ!…ついにこの日が…」 椛「そ、それでどのようなスペルを授けて頂けるのでしょうか!」 コーチ「まあ慌てるな。その前に一つ試験をさせてもらうぞ」 椛「試験…ゴクリ…して、その内容は…?」 コーチ「そうですね…」 コーチ「椛よ、お前は剣を扱えるのでしたね?」 椛「はいっ!」 コーチ「それではこの滝を切ってみせよ!!」 椛「滝を…切るっ!?」 椛「この大滝を…」 コーチ「そうだ!」 椛「またまたご冗談を。そんな、幾らなんでも無理ですよ…」 コーチ「このバカチンがーっ!」 ビシッ! 椛「キャイン!」 椛「こ、コーチ?…いきなり何を…」 コーチ「何を甘ったれた事を抜かすか!やってもみないうちから無理などと言うな!」 椛「コーチ…」 コーチ「それとも臆したか?諦めるのか?お前の覚悟はそんなものだったのか!?」 椛「私…」 コーチ「出来ぬと言うならそれで構わん。お前は所詮そこまでの妖だという事だ」 椛「私は…」 椛「コーチ!私が…私が間違ってました!!」 コーチ「椛…良くぞ言った!」 椛「はいっ!私は今モーレツに熱血しています!」 コーチ「そうだ、その意気だ!」 椛「やります、私やります!」 コーチ「大丈夫だ!私がついているぞ!」 椛「そうだ!まずコーチがお手本を見せてくださいッ!」 コーチ「良し!任せ…お、お手本ッ?」 コーチは声が裏返った! 椛「はいっ!コーチほどの凄いお方ならこのぐらい朝飯前ですよね!」 コーチ「あ、ああ…も、もちろんだ!」 椛「さすがはコーチ!お願いしますッ!! コーチ「だ、だがな椛よ…そ、そうそう!私の動きが見切れるのか?」 椛「大丈夫です!!一挙手一投足を見逃さぬ様、この二つの眼にしかと焼き付けます!是非ともお願いします!」 コーチ「うむむ…(ま、マズイ事になってしまいました…)」 椛「お・手・本!お・手・本!O・T・H!O・T・H!」 コーチ「わ、わかった、わかったからそんなに急かすんじゃない!」 椛「わーいっ!」 コーチ「すーっ…はぁーっ…(こうなったら仕方が無い…)」 椛「おおっ…神経を集中させてらっしゃる…どきどき…」 コーチ「はあああああっ!(かくなる上は…)」 椛「か、風が…集まっていく…!?」 コーチ「おおおおおおおっ!(全力でっ!)」 ビュウッ! 椛「わあっ!」 コーチ「ぬわああああああっ!(誤魔化すしかないッ!!!)」 椛「こ、コーチッ!?」 コーチはその場に倒れ伏せた! 椛「コーチッ!どうしたんですか!?」 コーチ「うう…」 椛「コーチ!コーチッ!!」 コーチ「うう…スマヌ椛よ…今の私では…」 椛「ハッ!まさか…どこかお体の具合が…」 コーチ「え?あ、ああ!そうそう!ゴホンゴホン…実は…私はもうそんなに長くは持たないのだ…」 椛「やはりそうでしたか…そうとは知らず…ううっ…」 コーチ「…よい。それより手本を見せてやれずスマヌな…」 椛「…未熟な私に、何故突然必殺技を教えてくれるなんて言い出したのか、ようやく理解しました!」 コーチ「ふふ…体の自由が利くうちにと思っていたのがこの様よウエッホゲホ…」 椛「それ以上喋っちゃ駄目です!」 コーチ「ふう…今日の特訓はここまでにしておこうか…」 椛「はい…」 それが…その日がコーチと話した最後の日となりました… 翌日、烏の穴でコーチの事を尋ねても皆口を噤むばかり。 コーチが何処へ行ったのか、どうなったのかは結局わからずじまいでした。 私に唯一つ残されたのはコーチの使っていた竹刀だけ… それから椛は一心不乱に竹刀を振り続けました。 雨の日も 風の日も 雪の日も 来る日も来る日も素振りを続けました。 いつか、いつの日かコーチを超えるために… 椛の長く厳しい特訓の日々は今も続いているのだ! 椛「コーチ…見ていてください!いつかこの滝を切って見せます!!」 コーチ「椛…おまえならきっと出来る…」 吹き抜ける風に懐かしい声を聞いた、そんな気がした椛であった… 豆幽々子「ギュギュムムググ…(もぐもぐ…泣ける話ね…)」 にとり「椛…椛にそんな過去があったなんて…ゴックン」 椛「そう、そして今こそが特訓の成果を見せる時!」 チラッ… 椛「さあ、そろそろ行くよ!」 メディスン「シカシ、タキガキレナカッタアナタニナニガデキルトイウノカ…?」 椛「確かに…超必殺技伝授は成らなかった…だけどね!」 椛「私にはコーチとの特訓の日々で培われた基礎と…」 椛は天高く舞い上がりメディスンに躍り掛かった! 椛「コーチの教え、コーチの魂…」 椛「そして何より、諦めないという信念があるんだッ!」 メディスン「グッ…コレハ…ハヤイ!カワシキレナイッ…!?」 椛「どうした!?まだまだこれから速くなるよ!」 メディスン「カイヒフノウ…カイヒフノウ…」 椛「ワオォォォォォンッ!!」 豆幽々子「ムギュムギュ…(ああっ!凄い!でもメディスンが壊されそうで恐い…)」 椛「二倍!三倍!まだまだっ!」 メディスン「グッ…コノママデハケズリキラレテシマウ…」 椛「わはははは!どうだ!これが、コレこそが犬走椛の犬走風靡だ!」 メディスン「カクナルウエハ…アマキドクヨ…キタレ!」 メディスンはおおきくいきをすいこんだ! メディスン「チャージ70%、80、85…」 椛「むっ…さては毒の能力を使うつもりだな!」 メディスン「90、95…」 椛「しかしッ!ぎゅーちゃんのお陰でそいつは対策済みだよっ!」 メディスン「チャージカンリョウ!ドクギリサンプカイシシマス」 辺りは暗い毒霧に包まれた! 椛「来たな!」 メディスン「サンプカンリョウ、ゲイゲキモードサイカイシマス」 メディスンの姿は毒霧の中へ消えていきました… 椛「(むむむ…思ったより視界が悪いな…)」 キキキィッ!ピタッ… 椛「(それにこの毒…マスクをしてもじわじわと効いて来るみたいだ…)」 メディスン「(コレデトラエラレルソクドマデハオトセタハズ…)」 メディスン「(…ダガ、コノシカイシンドナラバ、センリサキヲミトオステイドノノウリョクニハムイミ…)」 椛「(そう。子供だましは通用しない…が、能力に神経を集中させる分動きはどうしても鈍ってしまう…)」 二人の間に緊張した空気が張り詰める! 椛「(しかもコレだけの手錬だ…自分の毒霧で自分の視界を塞いでしまうという下策は打つまい…)」 メディスン「(シカシ…コノドクギリジタイガドウタイセンサーニナッテイルイジョウ、ジョウケンハゴカク…!)」 椛「(万全の態勢で相手が打ち込んで来るのを迎え撃つだけ…か。しかも毒のお陰でグズグズはしていられない…)」 シャキーン! 椛「(コチラに選択権は無い…ならばこの隠し剣・サイファーで…)」 メディスン「(コノジョウキョウデアイテガトルコウドウハタダヒトツ…)」 椛「(太刀筋は間違いなく読まれてると思って良い…)」 メディスン「(ゼンリョクヲモッテシテノショウメントッパ!)」 椛「だがっ!」 ズバッ! メディスン「ヨソクテキチュウ!トッタ!!」 椛「し、白刃取りッ!?」 メディスン「ネライハヨカッタケド…ゼンブオミトオシダヨ!」 椛「ぐ…やはりバレてたか…」 メディスン「サア、オワリニシマショウ…」 椛「………そうだね…“私達”の勝ちだ!」 にとり「はいは〜い。ご苦労さん、椛!」 メディスン「ナ…コノドクギリノナカニハタシカニフタリシカイナイハズ…ソレニ…」 椛「それにこの視界じゃ外からの援護は有り得ない、でしょ」 メディスン「マサカ…コウドウパターンヲユウドウシテイタツモリガ…」 椛「そう、誘導していたのは実際は私達のほうだったんだよ!」 メディスン「シカシイッタイドウヤッテココカラワタシ…ヲ…?」 椛「む、にとりの方は終ったみたいだね」 メディスン「システムエラー、システムエラー…」 にとり「はい、完了っと。もう押さえてなくていいよ」 椛「キミは強かった…だけど、間違った強さだったよ…」 メディスン「マサカ…シタカラトハ…チノリハソチラニアッタト…イ…ウ…メディスン・システムダウン…」 にとり「ふふふ…この“本当にのびーるアーム”にできない作業などあんまりない!」 椛「なんとか上手くいったね」 豆幽々子「ギューッムギュ?(終ったの…?霧の中で一体何が…?)」 椛「でも凄いよ!手元の小型カメラだけで難しい作業を済ませるなんて」 にとり「なんのなんの。椛がダクトの上に上手く誘い込んでくれたから上手くいったんだよ!」 椛「それでも、ワタシが持ち堪えられるだけの間に終らせられたのはにとりんの実力だよ!」 椛「それよりにとりん、早くこのガスを何とかしないと!」 にとり「え?ああ、やってるよ。もうマスクはずしても大丈夫だよ」 椛「流石、抜かりはないね!」 椛「そうか、さっき使ったのは通気ダクトだったんだね」 にとり「ふふふ、こういう事態も想定の範囲内さ」 豆幽々子「ピキュギュー!?」 |